フランスにおけるひきこもり当事者の「病の語り」

第23回多文化間精神医学会学術総会 2016 http://www.procomu.jp/jstp2016/

フランスにおけるひきこもり当事者の「病の語り」

タジャン・ニコラ 京都大学 人文科学研究所

「病いの語り。慢性の病いをめぐる臨床人類学」(The Illness Narratives. Suffering Healing and the Human Condition) の著者、アーサー・クラインマン。彼が1988年に発表した、この有名な本から、多くの 病の語りの研究が行われています。それに導かれた「マギル大学の病の語りのアンケート」(McGill Illness Narrative Interview-MINI) は重要な方法論的な貢献と考えられています。ダニエル・グロローとアラン・ ヤングとローレンス・J. カーマイヤーは2006年に英語バージョンを出版しました。また、ダニエルグロロー のフランス語バージョンは、2013年に出版されました。2014年8月に、三脇康生とタジャンニコラはMINI の最初の日本語バージョンを確定して、2016年8月に修正されたバージョンを出版しました1。 本発表の目的はMINIと文化的定式化面接 (CFI) と NVIVOデータ分析ソフトの関連性を論じることにあ ります。フランスに住んでいる女性 (20歳) のケースにフォーカスを当てています。この病の語りの調査は、 次のテーマを明らかにします。すなわち、このケースで問題となった、健康問題に関係する一連の出来事、 その典型 (プロトタイプ) の語り、語りに持ちられている説明モデル、治療サービスと治療への同意の語り、 生活への影響、文化の影響。総体的には、このケースを、定性手法を用いて、分析を行いたいと思います。 その結果、多文化間研究の枠組みの中でMINIとCFIとNVIVOの貢献と限界を議論します。 本発表は、病の経験とひきこもり当事者に興味を持ってすべての人々に開かれています:精神科医、臨床 心理士、看護師、ソーシャルワーカー、当事者等の方々のどなたでもお聞きいただきたいと思っています。

1以下のウェーブサイトでダウンロード可能:https://www.mcgill.ca/tcpsych/research/cmhru/mini

以下参照

第23回多文化間精神医学会学術総会 2016

10 月 1 日土 9:00 〜 10:30

座長:三脇 康生(仁愛大学人間学部 心理学科)

シンポジウム 4 『病の語り MINI』

第23回多文化間精神医学会学術総会 2016

  • S4-1  MINIを利用した大学病院精神科における臨床・教育の試み 
阿部又一郎 東京医科歯科大学 精神科
  • S4-2  フランスにおけるひきこもり当事者の「病の語り」 
タジャン・ニコラ 京都大学 人文科学研究所
  • S4-3  トラウマ体験と語り -カンボジアにおけるMINI使用の経験から 
吉田 尚史 東京武蔵野病院 第一診療部

シンポジウム 4 『病の語りMINI』

S4-1

MINIを利用した大学病院精神科における臨床・教育の試み

阿部 又一郎 東京医科歯科大学 精神科

上田 優 東京医科歯科大学 精神科

病いの語りをめぐって、YoungはKleinmanの説明モデル(1980)を批判的に発展させて、説明モデル、プ ロトタイプ、連鎖的複合という3つの推論モデルを導入した。この流れを受けて、近年、カナダのMcGIll大 学Transcultural Psychiatry部門のGroleauらは、5つのセクションで構成された病いの語りMINI (McGill Illness Narrative Interview) 質問紙を考案した (Groleau, Young & Kirmayer, 2006)。MINIは原著発表 後、すでに数多くの言語に翻訳され、臨床や研究領域で利用されている。本邦でGroleauによって2013年に 改定された仏語版をもとにMiwaki、Tajanらが2014年に日本語版を作成している。 我々は、大学病院精神科での臨床実地においてMINIを利用し、主にフランス滞在という異文化体験をも つ若年患者の語りを通じて、病いに関連する苦悩について医療人類学的な聴き取りを試みてきた (阿部ら、 2015)。本発表では、実際の使用経験に基づいた大学病院精神科における臨床と教育実践について報告する。 尚、紹介する臨床ケースは、すべて使用目的について同意を得た上で、発表にあたっては匿名性を確保しつ つ内容を損なわない範囲で適宜変更を加えている。MINIの臨床使用にあたっては、患者の現症や治療療関 係性なども考慮に入れる必要があった。いまだ予備的な利用段階であるが、本邦の臨床実地においても、通 常診察では把握しきれない患者の病いの語りを構成する認知や感情の軌跡を辿る上での理解の一助となり うる。Grolaeuらも、医学教育における啓発ツールとしての有用性を指摘する。患者の苦悩を理解して主体 性を支持する点で、MINIは今後PCM (Person-Centered Medicine) 領域における貢献が期待されている (Groleau, 2013)。 MINIの臨床応用にあたって、面接実施時間の長さや、前提とされる推論モデルに基づいて把握する上で の困難さに直面する。研究応用にあたって、質的データ解釈における方法論上の問題がある。それでも、 MINIを用いた医療人類学的面接は、臨床的にも医学教育的にも、また質的研究を行う上でも今後有用な手 法のひとつになると考えられた。

S4-3

トラウマ経験と語り -カンボジアにおけるMINI使用の経験から

吉田 尚史 東京武蔵野病院 第一診療部

発表者は、特定の時代と文化圏における精神疾患概念と例えばそれに基づくケアのあり方が、今やグロー バルに展開する精神医学という概念の枠組み、社会経済技術的な環境と相互影響関係に成立するという観点 から研究を進めている。フィールドはカンボジアである。周知のように米国精神医学会が編纂したDSM-III (APA 1980) を嚆矢とする精神医学の標準化、先進国や国際機関から途上国へ向けて普及活動が展開するグ ローバルメンタルヘルス (GMH: Global Mental Health) の潮流等がある。 さて本発表では、MINIを用いてカンボジアにおけるトラウマ経験と語りに焦点をあてる。MINI (The McGill Narrative Interview)とはTranscultural Psychiatry誌に登場した半構造化された質問紙である (Groleau, Young, and Kirmayer 2006)。MINIのクメール語バージョンを使用して調査を行った。 カンボジアにおいては1970年から20余年に渡り内戦とジェノサイドが国内で続いた。とりわけポル・ポト 時代 (1975-1979) には、病気や飢餓、殺害等で約170万人が死去した。カンボジア移民と難民を対象とした 調査研究にて、彼らにはトラウマ経験およびうつ病やPTSD等といった精神疾患が高率に認められると報告 されている。その一方で国内の調査研究からは「内戦とジェノサイト」に関わるトラウマ経験をした精神疾 患患者は先述の調査報告と比して多くはない。本研究では、トラウマ経験があって精神疾患を患ったカンボ ジア国内の患者をインタビュー対象者として、MINIを用いてトラウマ経験と語りを聴き取った。 発表当日には、語りのデータに基づき若干の考察を加えたい。